【ハート将棋物語】〜ハートサンドゲーム〜(前編)

「ただいま」「ただいまー」「タダイマ」

学童クラス「すこやかきょうしつ」に入ってくるときは、そう言うのがきまりになってる。最初の頃はすごく嫌だったけど(だってここは家じゃないからね)、もうなれた。…っていうか、しょうがないよね、きまりなんだから。

「おかえり」

今日の「しどういん」は、コウノ先生とナナコさんだ。コウノ先生は、ちょっとオバさん…っていうか、ママとおばあちゃんの間ぐらいの年かなあ、よくわかんないけど。このコウノ先生がよくいうんだよ。「それはきまりだからね」って。

きまり通りに自分のロッカーにランドセルを入れていたら、ナナコさんが後ろを通りながら言った。

「こんにちは、ヤマキ君。今日も宿題はやんないの?」

ナナコさんは「しどういんじょしゅ」っていうらしい。本当は大学生なんだって言ってた。コウノ先生よりはずっと若い。だからかどうかわからないけど、ナナコさんは「おかえり」をあまり言わない。「こんにちは」だ。ナナコさんも「ただいま」「おかえり」は変だなと思ってるのかもしれない。

「宿題は家でやるから」

家でやる勉強だから英語ではホームワークっていうんだよ、って付け足そうかと思ったけどやめておいた。ナナコさんに生意気な子だと思われたくないからね。
「おっと、そうかね。忘れないでちゃんとやれよ」

背がすうっと高いナナコさんは、そう言いながらぼくの頭をひとなでした。女の人っていうより、お兄ちゃんみたいなしゃべり方をする。でもそれがちょっとかっこいいと思う。

小学校3年生の宿題なんて少しの時間でできる程度のものだしね。学童でやらなくっても困ったことはないよ。それよりも、ぼくはここでは別の時間の使い方をしたいんだ。

「ああ、ショーギ少年、連絡カードはどうした?」ナナコさんが言った。ナナコさんはぼくのこと「ショーギ少年」って呼ぶことがある。これも実は結構気に入っていることの一つだ。

親と学童クラスの連絡に使うカードをランドセルから取り出してナナコさんに渡す。それから、大事な本「三手詰め100問」を持って、ぼくはいつもの場所に座る。いろいろなボードゲームが置いてある窓の下の棚から将棋盤を取り出す。そう、ぼくにとって学童クラスは、じっくりと詰め将棋をやる場所なんだ。昨日はどこまでやったっけ?「三手詰め100問」をめくって…今日は37問目だ。飛車が邪魔駒でどうしようかな、っていうところで止まってたんだった。さてと、と駒を並べて考え始めたとこで、ナナコさんの声が聞こえた。

「そうそう、ショーギ少年、ヤマキくん。今日、こんなものが入ったのだぞ」
ナナコさんは両手で何かを持っている。大きなハートが描かれた青いカバンだ。

「ええ?なにそれ」「かわいいー!」「ハートだあ」「見せてえ」

それを見て、宿題をしていたり、別のところでおしゃべりしていたりした女子たちがみんな立ち上がってナナコさんに近づいて取り囲んでしまった。

「これね」ナナコさんが中のものを取り出しながら言う。

「将棋なんだよ、ハート将棋。新しい遊び道具として、今日仲間入りしましたあ!」

ピンクの可愛い将棋の駒

「うわあ、かわいい」「かしてかして」「これ並べるとすごくキレイ」「ドミノ倒しもできるよ」

女子たちがさっそくハート将棋に飛びついた。ぼくはなんだかすごくイヤな気持ちだった。だって、ナナコさんはぼくにハート将棋を見せようとしてくれてたんじゃないか。それなのにどうして普段将棋に興味なんかない女の子たちが、先に遊んでるんだ!?おかしいだろう。どうせ、やり方なんてわからないに違いない。ハート型?ビンクと白?ぼくは普通の将棋の方がずっと好きだ。

「いろいろ遊べるけれど、本来は将棋をするものだからね。動かし方が書いてあってわかりやすいでしょう。そうだ、ヤマキくん、みんなに将棋を教えてあげなさいな」

コウノ先生がおやつのお皿を準備しながら言った。

冗談じゃない!ぼくは、詰め将棋を解くのは大好きだけど、本当は誰かと対局するのはあんまり得意じゃないんだ。だいたいどうしてぼくが女の子たちに教えたりしなくちゃいけないのか。
ぼくが黙っておやつの皿を取ると、コウノ先生がさらに言った。

「いつも一人で誰ともお話ししないし、外にも遊びに行かないんだから。ハート将棋で女の子たちと少し仲良くなったらどうなの?」

ますますイヤになってきた。ぼくは別に人と話をするのが嫌いなわけじゃなくて、特に話すことがないだけだ。外に出て動くより、詰め将棋が楽しいからやってる。一人で詰め将棋してるのは悪いことなのか。

「別に教えてもらわなくても大丈夫だもんねー」

「ハートの表側に描いてあるもん」

ハートデザインの可愛い駒

女の子たちがますます楽しそうにハートの駒で遊び始めた。ふん、ぼくは絶対に教えてなんかやらない。勝手にやればいい。将棋は五角形っていうのがきまりだ。なんでピンクのハート型なんかにしたんだろう。なんだか、ちょっと悲しくなってきた。おやつで気を紛らそうとしたけど、今日はサツマイモと牛乳だけかあ…余計に気が滅入る。

「どうした、ショーギ少年。このお芋は1、2年生が畑で収穫してきたものだぞ。たくさん食べて元気出せ!」

ナナコさんはそういうけどぼくは、サツマイモでなんか元気になってやるか、と思っていた。

女子たちは賑やかにおしゃべりしながらおやつを食べていた。ぼくはサツマイモを急いで口に詰め込んで、いつもの将棋盤に戻った。「三手詰め100問」の37問目を解くんだ。

 

 

「うーん、桂馬を持ってるんだから…」いつの間にかすっかり「三手詰め100問」に夢中になっていた。そんな時、またナナコさんの張りのある声が響いた。

「ショーギ少年!ちょっと、こっちきてくんない?」

いくらナナコさんの頼みでも、ぼくは将棋を教えたりなんかしないよ。ハート将棋だったら動き方が書いてあるから、初めてでもちゃんとゲームができるんだろう。だったらやったらいいじゃないか。

「ショーギ少年ってばあ、こっちでハートサンドゲームやろうよ」

 

>>>後編に続きます。

 

【ハート将棋物語】〜宇佐木野生(うさぎのぶ)作〜

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*実際に「ハート将棋」を購入されたお客様からお伺いしたお話をベースに、

作家・宇佐木野生(うさぎのぶ)さんが「ハート将棋物語」を執筆しました。

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ナチュリブのハート将棋の情報はこちら>>

https://www.heart-shogi.com/

 

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